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広島高等裁判所 昭和58年(行コ)2号 判決

控訴人(原告) 神田智光 外四名

被控訴人(被告) 建設省中国地方建設局長

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

1  原判決を取り消す。

2  (主位的請求)被控訴人が控訴人神田智光、同小林基雄、同橋田九郎及び同中島勉に対し昭和三七年二月一七日付けで、控訴人池田利之に対し同年三月一六日付けでした各休職処分がいずれも無効であることを確認する。

3  (予備的請求)

(一) 被控訴人が控訴人らに対し昭和四二年一二月一〇日付けでした原判決添付別表(一)記載(一)欄の各格付処分がいずれも無効であることを確認する。

(二) 被控訴人が控訴人らに対し、人事院規則九―八第二〇条の三による復職調整として、原判決添付別表(一)記載(二)欄のとおり調整する義務を負うことを確認する。

4  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文と同旨

第二当事者の主張

次に訂正・付加するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

原判決三枚目裏七行目の最初の「判決」の次に「(以下「本件刑事判決」という。)」を、同じ行の「右起訴」の次に「(以下「本件起訴」又は「本件刑事訴追」という。)」を、同七枚目裏六行目の「出たもの」の次に「、すなわち、不当労働行為意思の発現」を、同九枚目表九行目の次に、改行して、「このように、本件各休職処分は、被控訴人の有する裁量権の範囲を明らかに逸脱するものである。」を、同裏二行目の「違法」の次に「、無効」をそれぞれ加え、同一五枚目表七行目の「施行」を「施工」に改める。

第三証拠関係〈省略〉

理由

第一主位的請求について

一  控訴人らが昭和三七年当時、中国地建の職員であり、全建労の組合員であったこと、控訴人らが昭和三七年二月九日付け及び同年三月一六日付けで、暴力行為等処罰に関する法律違反の罪により広島地方裁判所に起訴され、昭和四二年一一月二五日、本件刑事判決の言渡しを受け、同判決が確定したこと、本件起訴にかかる公訴事実の要点、本件刑事判決における有罪・無罪の別及び有罪となった事実についての罪名・量刑が原判決添付別表(二)のとおりであること、被控訴人が本件起訴を理由として、控訴人池田に対しては昭和三七年三月一六日付けで、その余の控訴人らに対しては同年二月一七日付けで国家公務員法七九条二号による本件各起訴休職処分をしたこと、以上の各事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、本件各起訴休職処分に控訴人ら主張のような無効事由があるかどうかについて順次判断する。

1  請求原因4(二)(1)(不当労働行為該当)の主張について

一般に、行政処分が当然無効であるというためには、その処分に重大かつ明白な瑕疵のあることが必要であり、このことは、起訴休職処分に不当労働行為該当の瑕疵がある場合においても同様であって、その瑕疵が重大かつ明白なものであるときに限り、その起訴休職処分が当然無効になるものと解するのが相当である。そして、控訴人らは、本件起訴が中国地建当局の全建労破壊を目的とした事実無根の申立てに基づくものであり、本件各起訴休職処分も同様の目的のもとに不当労働行為意思の発現として行われたものである旨主張するところ、仮にそうであるとすれば、本件各起訴休職処分には重大かつ明白な瑕疵があるとみる余地があるので、まず、この点について検討する。

(一) 前記一の争いのない事実及び成立に争いのない甲第一号証(本件刑事判決)によれば、控訴人らは、原判決添付別紙「公訴事実の要旨」記載の公訴事実(以下「本件公訴事実」という。)について、昭和三九年法律第一一四号による改正前の暴力行為等処罰に関する法律一条一項違反として起訴されたことが認められる。

(二) 右刑事事件の発生に至る経緯及び背景に関する認定判断は、次に訂正・付加するほかは、原判決の理由二1(二)(原判決二〇枚目表九行目から同二七枚目表一行目まで)のとおりであるから、これを引用する。

原判決二〇枚目表一〇行目の「成立」から同裏四行目までを「成立に争いのない甲第六、第七号証、第四八号証、第五一ないし第五七号証、乙第一ないし第六号証、第七号証の一ないし一四、第八号証の一ないし一〇、第一一号証の一ないし五、第一二号証の一ないし一〇、第一三号証の一ないし七、原審証人大河原基典、同井川博の各証言、原審及び当審における控訴人小林基雄本人尋問の結果を総合すれば、次の各事実が認められ、右認定を覆すに足りる的確な証拠はない。」に改め、同二〇枚目裏一一行目の「加え、」の次に「とりわけ補助員には」を、同二一枚目裏一行目の「委員会」の次に「に出席するため」を、同六行目の「〈10〉」の次に「その他、」をそれぞれ加え、同八行目の「特に」から同一〇行目の「承認できないとして」までを「特に人事についての事前協議に関する運用は、被控訴人の人事権を制約するものであって、承認できないとして」に、同二二枚目表九行目の「これ」を「右会計係長人事」にそれぞれ改め、同裏三行目の「和里田新平は、」の次に「組合側の右申入れに対して何ら回答しないのまま、」を、同一一行目の「発生した。」の次に「なお、中国地建河川計画課長阿川孝行は、同月六日、郷川工事事務所管理者と全建労郷川支部との交渉に同席した際、組合役員に対し、郷川工事事務所の混乱状態が続くと事務所を閉鎖せざるを得なくなるとの趣旨の発言をした。」をそれぞれ加え、同二三枚目表二行目の「要求する」を「主張する」に、同裏一〇行目の「作成する」を「制定施行する」にそれぞれ改め、同二四枚目表六行目の「任命し」の次に「、また、建設大臣においても同月二四日、全建労本部との間で、郷川工事事務所における事態の収拾について交渉し、従来の労働慣行は破棄したうえ、新たに工事事務所管理者と組合との間で話し合うこと、組合は直ちに闘争態勢を解くことを骨子とする収拾案を提示し」を加え、同二四枚目裏六行目の「これ」を「使用伝票の提出」に改め、同八行目の「契機として」の次に「、当時郷川工事事務所に業務補助者として来所していた中国地建人事課任用係長杉原邦治が、伊勢田所長に対し、使用伝票を提出させるように入智恵したとして、組合側が右杉原を追及した際に」を加え、同二五枚目表二行目の「前記」から同三行目の「方向で」までを「後記(9)の確認書と概ね同内容の収拾案により」に、同四行目の「その」を「右収拾案中の労働慣行の意義の」にそれぞれ改め、同裏三行目の「各号」を削除し、同五行目の「行い、」の次に「同日、処分の内容を記載した懲戒処分書及び処分の理由として右の趣旨を記載したにすぎない処分説明書を各被処分者あて郵送し、」を、同一一行目冒頭の「たが、」の次に「中国地建管理者側は、処分説明書の記載をもって足りるとし、非違行為の具体的な内容やこれが国家公務員法八二条各号のいずれに該当するかについての説明を拒否する態度に終始し、」をそれぞれ加え、同二六枚目裏六行目から同一〇行目にかけてのかっこ書を削除する。

(三) 次に、本件公訴事実(以下、本件公訴事実に関する番号は、原判決添付別紙「公訴事実の要旨」記載のものを指す。)に対応する事実の存否について、本件刑事判決の認定判断と対照しながら順次検討する。

(1) 本件公訴事実(一)(中国地建任用係長杉原邦治に対する行為)について

本件刑事判決において、控訴人橋田が右公訴事実(ただし、実行行為は共同暴行のみ)について有罪の認定を受けたことは、前記のとおり、当事者間に争いがなく、前掲乙第一二号証の四及び弁論の全趣旨によれば、右公訴事実に対応する事実のあったことが認められ、原審及び当審における控訴人橋田本人尋問の結果中、右認定に反する部分は容易に信用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(2) 本件公訴事実(二)のうち、昭和三六年一二月一六日の行為について

〈1〉 本件公訴事実(二)第一の一(中国地建建設専門官富永忠に対する行為)

控訴人神田、同小林及び同中島が右公訴事実について無罪とされたことは、当事者間に争いがなく、前掲甲第一号証によれば、本件刑事判決は、右無罪の理由について、同控訴人らが富永に対して中国地建局長らの所在等を追及した際、富永の背広のえりを持ってゆすぶったり、肩を押すなどし、更に同人を押すようにして一メートル程後退させて書類棚の隅付近に押しつけたとの事実は認められるものの、同控訴人らが富永の胸や肩を突いたとの事実は認められないとしたうえ、右認定の行為も、抗議ないし追及行為に付随してなされた軽微な有形力の行使にすぎず、その行為の目的、手段及び態様に照らして可罰的違法性を欠くと判断したことが認められる。そして、前掲甲第五一号証及び乙第一、第二号証によれば、同控訴人らは少なくとも右認定の有形力の行使をしたことが認められ、原審(ただし、控訴人中島については第一回)及び当審における同控訴人ら各本人尋問の結果中、右認定に反する部分は容易に信用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

〈2〉 本件公訴事実(二)第一の二(中国地建河川計画課長阿川孝行に対する行為)

控訴人中島が右公訴事実について無罪とされたことは、当事者間に争いがなく、前掲甲第一号証によれば、本件刑事判決は、右無罪の理由について、控訴人中島が阿川に対して、局長室に入らない方がよい旨助言したものの、同人がこれに従わなかったため、「計画課長で責任がもてるなら来い。」といって、同人の背広のえりをつかみ、数メートル位引っ張るようにして歩いたとの事実は認められるが、右公訴事実のように、同控訴人が阿川の背広のえりを両手でつかみ、局長室に引っ張り込んだとの事実は認めることができないと判断したことが認められる。そして、前掲甲第五五号証、乙第一号証及び原審(第一回)における控訴人中島本人尋問の結果によれば、控訴人中島が阿川の背広のえりをつかみ、さほど強い力は加えなかったものの、数メートル位引っ張って歩いたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

〈3〉 本件公訴事実(二)第一の二(二)(中国地建人事課長補佐三木春美に対する行為)

控訴人中島が右公訴事実について、全建労の威力を示したとの点を除く単純暴行として有罪の認定を受けたことは、当事者間に争いがない。そして、前掲甲第五一号証、乙第一号証によれば、控訴人中島に右公訴事実に対応する暴行の事実(ただし、全建労の威力を示したとの点を除く。)があったことが認められ、原審における控訴人小林、原審(第一回)及び当審における控訴人中島各本人尋問の結果中右認定に反する部分は容易に信用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(2) 本件公訴事実(二)のうち、昭和三六年一二月一八日の行為について

〈1〉 本件公訴事実(二)第二の一(中国地建局長和里田新平に対する行為)

控訴人神田、同小林及び同中島が右公訴事実について無罪とされたことは、当事者間に争いがないところ、前掲甲第一号証によれば、本件刑事判決は、右無罪の理由について、和里田の前のテーブルにあぐらをかくように座っていた君島孟雄が、椅子から立ち上がって同人と相対していた和里田の胸のあたりを押し、和里田がよろけて椅子に腰をおろすと、同人が立ち上がったあとの椅子の左ひじかけに腰かけていた控訴人小林が、手や膝で和里田の腰のあたりを持ち上げて立たせたということが数回あり、その際、付近にいた控訴人神田及び同中島が和里田の肩又はそのあたりを押した事実は認められるものの、控訴人神田及び同中島が和里田の胸を数回突いたとの事実や、控訴人中島が和里田の背広のえりをつかんでゆすぶったとの事実は、証明不十分であるとしたうえ、控訴人小林の右行為も、軽微な有形力の行使にすぎず、可罰的違法性を有しないと判断したことが認められる。そして、前掲甲第五二号証、第五六、第五七号証、乙第一ないし第三号証、第五、第六号証によれば、控訴人神田、同小林及び同中島には、少なくとも右に認定された程度の有形力の行使があったことが認められ、右認定を覆すに足りる的確な証拠はない。

〈2〉 本件公訴事実(二)第二の二(中国地建総務部長金田長則に対する行為)

控訴人神田及び同中島が右公訴事実について無罪とされたことは、当事者間に争いがない。前掲甲第一号証によれば、本件刑事判決は、右無罪の理由について、組合員らが処分理由の説明をもとめて金田を追及した際、前記君島が金田の背広のえりを持って立ち上がらせて数回ゆすぶり、次に、今野春治が金田の背広のえりをつかんで前後にゆすぶり、次いで、控訴人中島が国公法八二条云々と抗議しながら金田の背広のえりをつかんでゆすぶったことが認められるが、進んで、右三名が前記公訴事実のようなかなり強度の暴行に及んだ事実は認めることができないし、控訴人神田が前記公訴事実のような暴行をしたことも認められないとしたうえ、控訴人中島ら三名の右行為は可罰的違法性を有しないと判断したことが認められる。そして、前掲甲第五四号証、乙第一号証、第四号証によれば、控訴人中島には、少なくとも右に認定された程度の有形力の行使があったことが認められ、当審における同控訴人本人尋問の結果中、右認定に反する部分はにわかに信用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(3) 本件公訴事実(二)のうち、昭和三六年一二月二〇日の行為について

〈1〉 本件公訴事実(二)第三の一(前記和里田に対する行為)

控訴人小林及び同池田が右公訴事実について無罪とされたことは、当事者間に争いがないところ、前掲甲第一号証によれば、本件刑事判決は、その理由について、同控訴人ら、徳弘鹿郎及び井川博が和里田に対し、懲戒処分について抗議し処分理由の説明を求めた際、それぞれ同人の背広のえりをつかみ、数回前後にゆすぶったことが認められるものの、これらの行為は可罰的違法性を有しないと判断したことが認められる。そして、前掲甲第五二号証、乙第一号証、第三号証によれば、控訴人小林及び同池田には、少なくとも右に認定された程度の有形力の行使があったことが認められ、当審における控訴人池田本人尋問の結果中、右認定に反する部分は信用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

〈2〉 本件公訴事実(二)第三の二(中国地建人事課長横田貞光に対する行為)

右公訴事実について、控訴人中島が全建労の威力を示したとの点及び他二名と共同したとの点を除く、単独の単純暴行として有罪とされ、控訴人神田及び同橋田がいずれも無罪とされたことは、当事者間に争いがない。前掲甲第一号証によれば、本件刑事判決は、控訴人中島が横田に対し、膝で股間を数回突き上げたとの事実は認められるが、右公訴事実のように、同控訴人が横田のえり首を両手でつかんで押し倒したとの点及び同人の足を蹴った点は、証明不十分であるとし、また、右無罪の理由について、控訴人橋田が横田の背広のえりを両手でつかんで引っ張り、そのため同人が前に動いた事実のあったことが認められるが、控訴人神田が横田の足を蹴ったとの点は、これを認めるべき証拠が不十分であるとしたうえ、控訴人橋田の右行為は可罰的違法性を有しないと判断したことが認められる。そして、前掲甲第五六、第五七号証、乙第一号証、第五、第六号証によれば、控訴人中島及び同橋田について、少なくとも右に認定された程度の暴行又は有形力行使の事実があったことが認められ、原審(第一回)及び当審における控訴人中島本人尋問の結果中、右認定に反する部分は容易に信用できず、他に右認定を覆すに足りる的確な証拠はない。

〈3〉 本件公訴事実(二)第三の三(中国地建用地課長西山良晴に対する行為)

控訴人中島が右公訴事実について無罪とされたことは、当事者間に争いがないところ、前掲甲第一号証によれば、本件刑事判決は、その理由について、同控訴人が西山の背広のえりを持って数回前後にゆすぶったことは認められるが、右行為は可罰的違法性を有しないと判断したことが認められる。そして、前掲甲第一号証及び弁論の全趣旨によれば、控訴人中島に、少なくとも右に認定された程度の有形力行使の事実があったことが認められ、当審における同控訴人本人尋問の結果中、右認定に反する趣旨に解される部分は信用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

〈4〉 本件公訴事実(二)第三の四(前記金田に対する行為)

控訴人池田が右公訴事実について無罪とされたことは、当事者間に争いがないところ、前掲甲第一号証によれば、本件刑事判決は、その理由について、同控訴人、徳弘及び井川がそれぞれ金田の背広のえりをつかんで数回ゆすぶり、同人が一メートル半位動いた事実は認められるものの、右行為は可罰的違法性を有しないと判断したことが認められる。そして、前掲甲第五四号証、乙第一号証、第四号証によれば、控訴人池田に、少なくとも右に認定された程度の有形力行使の事実があったことが認められ、右認定を覆すに足りる的確な証拠はない。

〈5〉 本件公訴事実(二)第三の五(中国地建労務係長友田博三に対する行為)

控訴人橋田が右公訴事実について無罪とされたことは、当事者間に争いがないところ、前掲甲第一号証によれば、本件刑事判決は、その理由について、同控訴人及び井川がそれぞれ処分に抗議する言葉を発しながら、友田の背広のえりをつかんで数回ゆすぶったことが認められるものの、右行為も可罰的違法性を有しないと判断したことが認められる。そして、前掲甲第一号証及び弁論の全趣旨によれば、控訴人橋田に、少なくとも右に認定された程度の有形力行使の事実があったことが認められ、右認定を覆すに足りる的確な証拠はない。

(四) 以上に説示したとおり、控訴人橋田は、本件公訴事実(一)(ただし、実行行為は共同暴行の点のみ)について、また、同中島は、本件公訴事実(二)第一の二(二)について三木春美に対する単純暴行として、同(二)第三の二について横田貞光に対する単純暴行としてそれぞれ有罪の認定を受けたものであり、右有罪の認定にかかる犯罪事実は、本件各証拠によっても十分にこれを肯認することができる。そして、控訴人橋田が罰金一万円に、同中島が罰金二万五〇〇〇円にそれぞれ処せられたことは、前記のとおり、当事者間に争いがない。

また、控訴人橋田及び同中島は、その余の各公訴事実について、その余の控訴人三名は、各公訴事実の全部についてそれぞれ無罪とされたものの、これらの各公訴事実に対応する外形的行為の存在さえ証拠上すべて否定されたのは、控訴人神田の金田長則に対する行為(本件公訴事実(二)第二の二)及び横田貞光に対する行為(同(二)第三の二)のみであって、その余の点については、程度・態様の違いは別論として、いずれも何らかの有形力の行使の事実が関係証拠によって認定されたうえ、右行為がその目的、程度及び態様等に照らして未だ可罰的違法性を有しないとの評価を受けて無罪とされたものであるにすぎず、そして、右に認定された程度の有形力の行使の事実を本件各証拠上肯認し得ることも、先に説示したとおりである。

控訴人らの右行為のうち、有罪の認定を受けた行為はもとより、無罪とされたその余の行為も、少なからず攻撃的で相手方の人格を軽視した態度の現れであって、実質的な被害が軽微であったこと及び右行為が行われた際の状況、特に、右行為が労働争議に随伴して、懲戒処分に対する抗議や処分理由の説明要求の際に行われたものであり、中国地建管理者側の、処分説明書の記載事項を超える具体的説明は一切拒否するというかたくなな対応にも問題がないではなく、これが一層控訴人らの感情を刺激して興奮・反発を招いたとの事情を参酌してみても、右行為の相手方が控訴人らによる犯罪の被害にあったとの認識を抱いたことは、無理からぬところであったというべきである。

したがって、和里田局長ら中国地建管理者が捜査機関に対し、控訴人らから本件公訴事実に対応する暴行等の被害を受けたとして、犯罪事実の申告をし、その被害状況を供述したことは、何ら異とすべきことではなく、これを事実無根の申立てというのは当たらないし、また、本件起訴ひいてはこれを理由とする本件各起訴休職処分が、全建労の破壊という目的のもとに不当労働行為意思の発現として行われたものと認めるのは、到底困難といわなければならない。この点に関する控訴人らの主張は採用することができない。

2  請求原因4(二)(2)(憲法二八条違反等)の主張について

国家公務員法七九条二号に規定するいわゆる起訴休職制度は、公務員が刑事事件に関して起訴された場合、その公務員を引き続き職務に従事させると、職場秩序の維持に悪影響を及ぼし、官職に対する国民の信用を損ない、また、公務の正常な運営に支障を来すおそれがあるところから、その公務員を、身分を保有したまま一時的に職務から離脱させることによって、右弊害の発生を防止することを意図するものと解される。

そして、本件のように、公務員が団体交渉の過程で発生した行為について起訴された場合においても、その公務員を引き続き職務に従事させるときは、前同様の弊害の発生するおそれがあることには、何ら変わりがないというべきであるから、右の場合を特に区別して取り扱うべき合理的理由はないし、また、右の場合に起訴休職処分を行うことが労使対等の原則や憲法二八条の精神に反するものとは到底考えられない。この点に関する控訴人らの主張も採用することができない。

3  請求原因4(二)(3)(無罪推定の原則違反)の主張について

起訴休職制度は、起訴された公務員を有罪と推定して休職を命ずるものではなく、起訴により犯罪の嫌疑を受けた公務員を引き続き職務に従事させることによって、前記弊害発生のおそれがあることに鑑み、起訴されたこと自体を要件として休職処分に付するものであるから、刑事裁判におけるいわゆる無罪推定の原則に違反するものということはできない。この点に関する控訴人らの主張も採用し難い。

4  請求原因4(二)(4)(裁量権濫用)の主張について

公務員が起訴された場合において、その公務員を休職処分に付するかどうかは任命権者の裁量に委ねられているが、右裁量は純然たる自由裁量ではなく、起訴休職制度の前記趣旨・目的からくる一定の制約があるのであって、公務員を起訴休職処分に付するかどうかを決定するに当たっては、公訴事実の性質及び内容、その公務員の地位及び担当職務の内容、その公務員が起訴されたことにより職場秩序の維持や公務の正常な運営に支障を来すかどうか、また、官職に対する信用を損なうか否か等を個別具体的に判断する必要があり、その起訴休職処分が社会通念上著しく合理性に欠け、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用してなされたものと認められ、しかも、その瑕疵が重大かつ明白なものである場合には、その起訴休職処分は当然無効となるものと解するのが相当である。

そこで、右の観点から本件各起訴休職処分に無効事由があったかどうかを検討する。

(一) 本件公訴事実の性質・内容について

控訴人らに関する本件公訴事実の具体的内容、これに対する本件刑事判決の認定・判断及び本件公訴事実又はこれに関連する事実のうち、本件証拠によって認定できる事実については、先に説示したとおりである。そして、本件公訴事実に相当する行為は、いずれも前記改正前の暴力行為等処罰に関する法律一条一項に該当し、その法定刑は三年以下の懲役又は五〇〇円以下の罰金(ただし、右罰金額は、昭和四七年法律第六一号による改正前の罰金等臨時措置法三条一項二号により二万五〇〇〇円以下となる。)とされていたものである。また、本件公訴事実に相当する行為及びこのうち、本件刑事判決において有罪の認定を受けた行為はもとより、結論的には無罪とされた有形力行使の行為も、当事者がとかく興奮し感情的になりがちな団体交渉に付随して発生したものとはいえ、相当攻撃的で、相手方の人格を軽視し、少なからぬ屈辱感を与えるような態様の行為であって、公務員としての節度を超え、社会的非難を免れないものであったといわなければならない。

(二) 控訴人らの地位及び職務内容について

(1) 弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第二三号証、原審及び当審における控訴人神田本人尋問の結果によれば、控訴人神田は、本件起訴当時(特に断らない限りは、以下同じ。)、建設事務官で、中国地建河川部河川管理課管理係に所属し、河川等に関する工事以外の管理(維持を除く。)に関する事務、河川法及び砂防法に基づく直轄工事に関係ある工事又は行為の取扱規程(昭和二七年建設省令第四一号)に基づく事務、河川等に関する工事に伴う手続に関する事務等を担当し、主として、河川管理者(当時)である県知事からの、河川流域内における工事が治水上支障を来すかどうか等の照会に対して回答する文書案の作成等を行っていたことが認められる。

(2) 成立に争いのない甲第三三号証、原審証人大河原基典の証言及び原審における控訴人小林本人尋問の結果によれば、控訴人小林は、建設事務官で、郷川工事事務所庶務課会計係に所属し一般会計事務を担当すべき地位にあったところ、当時建設省においては、職員が全建労本部の組合業務に専従する場合には、所定の専従休暇手続をとることを要求していたが、全建労地方本部については、例外的にいわゆる「もぐり専従」として、右の手続をとることなく組合業務に専従することを容認する取扱いをしており(ただし、その後昭和三八年八月、もぐり専従を認めない旨の建設大臣訓示が出された。)、控訴人小林も、全建労中国地方本部書記長として、もぐり専従の形で組合業務に専従し、本来の職務には従事していなかったことが認められる。

(3) 成立に争いのない甲第三六号証、原審及び当審における控訴人池田本人尋問の結果によれば、控訴人池田は、建設事務官で、郷川工事事務所庶務課会計係に所属し、主として、物品購入契約に関する事務を担当していたことが認められる。

(4) 原審及び当審における控訴人橋田本人尋問の結果によれば、控訴人橋田は、建設技官で、郷川工事事務所庶務課庶務係に所属し、自動車運転の業務を担当していたことが認められる。

(5) 成立に争いのない甲第二二号証、原審(第一回)及び当審における控訴人中島本人尋問の結果によれば、控訴人中島は、建設技官で、建設省広島機械整備事務所(後に広島技術事務所と改称)整備課に所属し、建設機械等の電気関係の修理等を担当すべき地位にあったが、当時全建労中国地方本部広島県協議会議長として、もぐり専従となり、本来の職務には従事していなかったことが認められる。

(三) 社会的影響について

成立に争いのない乙第一四号証、第一六ないし第二一号証及び弁論の全趣旨によれば、控訴人らに対する本件公訴事実を含む一連の刑事事件については、昭和三六年一二月二七日から翌三七年二月七日にかけて、中国新聞により、「全建労の集団暴行事件」、「全建労中国の暴行事件」等の見出しのもとに、被疑者として控訴人らの氏名や組合役職名を明記したうえ、かなり大々的に報道され、広島県下を中心に広く周知されたことが認められその社会的影響は決して小さいものではなかったと推認される。

(四) 起訴休職処分に付さなかった場合の弊害について

以上の認定事実に照らして検討するに、控訴人らは、いずれも職務上の上級者に対して集団的に暴行又は脅迫を加えたとの嫌疑により起訴され、しかも、その捜査段階で右嫌疑の内容が広く新聞報道されたものであるうえ、特に控訴人神田、同池田及び同橋田の三名は、その職務の性質上、一般の業者や他の部署の職員と接触する機会が少なくなかったものと推認されるから、同控訴人らを本件起訴後も引き続き職務に従事されるときは、とりわけ職場の上司との関係において職場秩序ないし規律の維持に好ましからぬ影響を及ぼし、また、同控訴人らの所属する官署又は官職一般に対する国民の信用を損なうおそれがあり、ひいては公務の正常な運営に支障を来す可能性があったといわなければならない。もっとも、控訴人小林及び同中島は、本件起訴当時、いわゆるもぐり専従として、全建労中国地方本部の組合業務に専従し、本来の職務から離脱していたから、他の控訴人らと比較すると、起訴休職処分に付さないことによる右弊害発生のおそれは、より小さかったということができるけれども、右専従者としての地位はあくまで一時的なもので、遠からず本来の職務に復帰することが予定され、また、希望すればいつでも右復帰が可能であったものと推認されるから、控訴人小林及び同中島についても、その本来の職務に重点を置き、これを基準として考察すれば足り、したがって、前記控訴人三名について説示したところが概ね妥当するものというべきである。

ところで、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第五八号証、原審及び当審における控訴人神田、同池田及び同橋田各本人尋問の結果中には、同控訴人らは、本件各起訴休職処分後も、従前どおり職場に出頭し、自席で組合事務を処理したり、忙時には他の職員の仕事を手伝うなどしたが、職場秩序の維持について格別問題が生じたことはなかったとの記載又は供述部分がある。しかしながら、これらは、右控訴人らの一方的な判断を述べたものであるにすぎないうえ、特に控訴人池田及び同橋田が配属されていた郷川工事事務所の職員は、管理者を除きすべて全建労に所属していたというのであるから、他の職員との関係で格別問題が生じなかったとしても、何ら不思議ではなく、そうであるからといって、本件各起訴休職処分当時において、客観的にみて、職場の上司との関係においても職場秩序の維持に何ら影響を及ぼすおそれがなかったことにはならないから、右の各証拠は先の判断を左右するに足りない。

また、控訴人らは、本件起訴にかかる刑事事件の公判期日への出頭については、年次有給休暇を利用することによって十分に対処することができたから、労務提供上支障を来すことはなかった旨主張するが、仮にそうであったとしても、右の事情は、専ら訴訟関係者の都合により結果的に生じた事情であるにすぎず、本件各起訴休職処分当時において被控訴人がこれを予測し得たものと認めるのは困難であるうえ、そもそも、本件起訴後の控訴人らの服務による前記弊害のおそれの有無を判断するに当たって、さほど重視すべき事情であるとは考えられないから、いずれにしても、前記判断に影響を及ぼすものではない。

そして、他に前記判断を左右するに足りる的確な資料証拠はない。

(五) 右に説示したとおり、控訴人らに対する本件各起訴休職処分は、一応の合理的根拠を備えたものであって、被控訴人が任命権者として有する裁量権の範囲を逸脱し、若しくはこれを濫用してなされたものということはできない。この点に関する控訴人らの主張もまた採用することができない。

5  以上のとおりであるから、本件各起訴休職処分が無効であることの確認を求める控訴人らの主位的請求は、いずれも理由がないこととなる。

第二予備的請求について

一  本件各格付処分の無効確認請求について

当裁判所も右請求はいずれも失当として棄却を免れないと判断するものであって、その理由は、次に訂正・付加するほかは、原判決の理由三1(原判決四〇枚目裏六行目から同四四枚目表四行目まで)のとおりであるから、これを引用する。

原判決四一枚目表六行目の「休職」の次に「(いわゆる欠員待ち休職)」を加え、同四二枚目表一一行目の「違法となるであろう。」を「違法となり、」に改めたうえ、その次に「しかも、その瑕疵が重大かつ明白なものであるときは、右格付処分は当然無効となるものと解される。」を加え、同裏二行目から三行目にかけての「極めて」を「必ずしも」に改め、同三行目の「できない」の次に「うえ、その余の公訴事実についても、結論的には可罰的違法性を欠くとして無罪とされたものの、かなり攻撃的な有形力行使の事実があった」を、同五行目の「裁量権の」の次に「逸脱、」をそれぞれ加え、同四四枚目表一行目の「異にするのであるから、」の次に「これらを比較して均衡を論ずるのは、当を得た議論とはいい難く、したがって、」を加える。

二  復職調整をする義務の確認請求について

行政庁を相手方として一定の作為又は不作為義務があることの確認を求める訴えが許されるかどうか、また、許されるとして、どのような要件のもとに許されるかは、甚だ困難な問題であるが、この種の訴訟が許されるためには、行政庁に一定の作為又は不作為を命じても、その行政庁の有する第一次的判断権を害することとはならない場合であること、したがって、少なくとも、行政庁がその処分をすべきこと又はしてはならないことについて法律上覊束されており、自由裁量の余地が全く残されていないような場合であることが必要であると解するのが相当である。

これを本件についてみるに、控訴人らは、本件各格付処分が無効であることを前提として、本件格起訴休職処分に伴う休職期間中の復職調整として、被控訴人が控訴人らに対し、原判決添付別表(一)記載(二)欄のとおりの調整をする義務があることの確認を求めているところ、右のような休職者の復職調整については、任命権者である被控訴人に裁量の余地が残されていることは、前項で説示したとおりであり(なお、昭和四四年改正後の現行人事院規則九―八第四四条も起訴休職者の復職調整について同旨の規定をしている。)、復職調整としてなすべき処分の内容が一義的に明確であるとはいえないから、右確認請求にかかる訴えは不適法というべきである(のみならず、右確認請求がその前提において失当であることは、前項の説示に照らして明らかである。)。

第三結論

以上の次第であって、控訴人らの主位的請求及び予備的請求のうち、本件各格付処分の無効確認請求は、いずれも失当として棄却すべく、予備的請求のうち、復職調整をする義務の確認請求にかかる訴えは、いずれも不適法として却下すべきであり、これと同旨の原判決は相当である。よって、本件控訴は理由がないから、いずれもこれを棄却することとし、控訴費用の負担について民事訴訟法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山田忠治 安倉孝弘 矢延正平)

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